わすれなぐさ

思うこと。

Christmas

通りすがりのひとの、歴史の一節をききましたので、あなたにも教えてあげましょう。


彼は、恋人に万年筆を贈りました。
ふたりは手紙のやりとりをすることが好きでした。

決して高価なものではないけれど、

“このペンがずっとあなたのそばにいることを…あなたの想いを掬ってくれることを…そしてそれがわたしに届くことを…”

こう想いを込めて、贈りました。


包みをあけた彼女は、ペンを見つめたまま顔をあげず、静かに涙をこぼしました。
彼女の想いはこうでした。

“わたしは知っている。やがてあなたに会えなくなることを、想いが伝えられなくなることを…。

あなたはわたしに教えてくれた。想いを伝えたいひとがいるしあわせを、それを受けとめ愛でてくれるひとがいるしあわせを…。

ただ、もう遅すぎた。
ペンの贈り主はまもなく消える。
ペンはわたしの想いを受けとめてはくれない。
想いがどこにも行けなくなる日は近い。

それなのに。
こんな悲しい贈りものを、あなたは……。”


彼女はそっとペンを置き、部屋の灯りを消しました。彼の手を引き、ベッドの中へ彼を閉じ込めてしまいました。彼女は「彼女の」好きな曲を流し、泣きながら、何度も彼を求め、受け容れ、そのまま眠りました。



その後。
彼のもとに、手紙は届きませんでした。
彼は、彼女を忘れるしかありませんでしたが…

I don't forget that you were here...

あの晩に彼女が流した曲の一節はこうでして、
「今もそうなのだろうか?」そう思うたび、
彼は「ひとりで」彼女を忘れることができずにいる、ということなのだそうです。





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